必然という名の偶然



「愛されていないとは思いません。でも、一番にはなれないのでしょう?」
ある日、糜娃にそう言われた。
私は困って、少し笑った。
「ごめんなさい。困らせてしまいましたね。」
ふふ、と悪びれた風もなく糜娃も笑った。
妻も、義弟も、趙雲達臣下に対しても、それぞれ大切に思っているし、愛している。
上手くは言えないけれど、皆大切の種類が違うから一番なんて決められない。
そう、思っていた。

でも、あの男孔明に会って変わった。



最初は軍師として。
でも、初めて彼の庵を訪れた時。
その家が、
彼の気が、
それを含んだ空気が、
私を貫いた。
打ち据えた。
包み込んだ。

欲しいと思った。
軍師としてではなく、一人の人間としての彼を。



「軍師なんていらねぇよ!俺達の武があれば十分じゃんか!」
膨れる張飛にも。
「兄者がそこまで入れ込む理由がわからぬが。」
諫める関羽にも。
「どうしても私には彼が必要なんだよ。」
軍師が必要なのだと嘘をつき続けた。
軍師が必要なんて嘘。
きっと彼が賢者でなくたって私には彼が必要だった。
運命なんて感じた訳じゃない。
ただ、生きる為に必要なのだと本能の様に求めた。
「どうしても、必要なのだよ。」
どうしてもどうしてもどうしてもどうしても。
彼の存在を知ってしまったら、もう彼なしには生きられない。
魚に水が必要なように、私にもまた彼が必要なのだと。


「謹んでお受けします。」
そう言ってにっこりと笑う彼を見た時は本気で泣けた。
きっと彼にも自分が必要なのだと予感めいたものさえあった。


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徳の人だからこそ、一人を愛する事が出来なかったんじゃないかなって。
ただの妄想ですが。


→モドル