一度目。
帰ったら家がいつもと違う。
それは女の甘い残り香のように、なんとなく漂っていた。
均に誰が来たのか尋ねたけれど、そういえば男が三人来ましたよとだけ言われた。
今までも訪ねて来る者は少なくなかったが、こんな感じは初めてだった。
会ってみたいと、思った。
二度目。
ああ、この感じ。
「また以前の方が?」
「そうですね。また来ましたね。」
均のどこか刺のある態度は相変わらずで、普段どんなことも態度に表すことのない彼がここまで他人を気にするのは珍しかった。
その後、友に劉備という人が自分に会いたがっていると聞いた。
劉備。
劉玄徳。
含むように反芻する。
ああ、そうかと思った。
何故かはわからないけれど、何となくそう思った。
これは必然なのだと。
三度目。
「先生はいらっしゃいますか?」
縁側で寝ていたら穏やかな品の良い声が聞こえた。
心地良く響く声だった。
決して大きな声ではなかったけれど、その時存在した全ての音の中で一番確かな響きを持ってはっきりと聞こえた。
「兄は今、昼寝をしていますが。」
「それでは、先生が起きられるまで待たせて頂いてもよろしいですか?」
きっとこれが最後なんだろう。
今、この時しかないと思った。
とてつもなく幸せなこと、あるいは何か恐ろしいことを前にしたように心臓がどくどくと脈打つ。
大きく息を吸ってゆっくりと振り向いた。
劉備という人は思った通りの人だった。
否、感じた通りの人だった。
その人物像を想像していた訳ではなかったけれど、ああ、やっぱりと思った。
黙り込む私に、彼は自分の想いを懸命に語った。
そんなもの聞かなくても答えは決まっていた。
「謹んでお受けします。」
本当は、彼が初めて自分の庵を訪れた時からわかっていた。
きっと自分はこの人と生きるのだろうと。
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満足。自己満足。(ダメじゃん)
水魚は"運命"よりもっと深い所で繋がってたらいいなぁ、と。
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