還ル所



ざああああ。


秋の雨が戦場だった地を濡らす。
戦火に飲まれた大地に染み込んでいく。


ああ、土の匂いだ…。

大地に手足を投げ出したまま、ぼんやりとそう思った。
こんな所で寝ていられない。
乾いた唇も、ひりつく喉も雨が潤してくれた。


行かなくては。
まだ、大丈夫だ。
剣を地に突き立て、重たい身体を起こす。

行かなくては。
自分を待っている者がいる。

自分を待っている者…そんな者がまだいただろうか?

多くの者を失った。
喪ってきた。

それでも、まだ、自分は生きている。


「殿!」
駆けて来る蹄の音。
ゆっくりと首を巡らせる。
趙雲だった。
「よくぞ御無事で…っ!」
趙雲は私を抱いて泣いた。


まだ、いてくれた。
待っていてくれる者が。
頬に落ちる温かい涙が心地良かった。


→モドル