ばれんたいん






「ばれんたいん…ですか…?」



いかにもナニソレといった星彩に対し、話題を振った張本人である尚香は嬉々として答えた。

「西洋の文化では、明日、女の子は好きな男の人にお菓子を渡すんですって!」
「へぇ。」
「へぇ…ってそれだけ?!」
「はい?」
「女の子ならもっと何かあるでしょ?!誰に渡そうとか何渡そうとか!」
「あぁ。」
「もー、星彩ってばドライ過ぎ!とても10代の女の子とは思えないッ!!」



故郷の呉では男勝りで有名だった尚香。
しかし、彼女を上回る女子がここに。


星彩。


はっきり言ってそんじょそこらの男共より男前である。
そんな彼女を見ていると

私、男勝りなんかじゃない!十分女の子!!

とか思えてくるのである。
尚香の姐さん的存在である月英も確かに男前である。
むしろ最強。
でも、料理は上手いし、家事全般も難なくこなす。
そういうところはとても女性らしい。
ただ、強いだけ。
色々と。

星彩はなんか違うのである。
乙女の恥じらいとかトキメキといったものが皆無。
スーパードライ。
ドラ●トワン。
そんな星彩にこんな話をふった私がアホだったわ。

小さな溜め息をついて気持ちを切り替えた。


明日のことについてワクワクと考える。
「玄徳様、何が好きかしら?甘いものは大体好きみたいだけど…」
「…劉備様に差し上げるのですか?」
「え?うん。そうだけど…?」
夫婦ですから。と心の中でツッコミを入れつつ。
「そう…ですか。」


……あれ?
私の見間違い?
見間違いであって欲しい。
今、ちょっと星彩が乙女だったような…?


「劉備様は、栗子月餅がお好きですよ。」

間違いない!
趙雲と同じ顔してる!
恋する乙女の顔してる!!
マジで?!あの星彩まで?!
これ以上増えちゃうの恋敵?!
ひどい!人類皆恋敵よ!
どんだけ前途多難なの!?
ま、正妻の地位は不動だけど。
…多分。
はあ…。モテモテの旦那を持つのは鼻が高いけど、モテ過ぎるのも問題よね。


先ほどとは打って変わってげんなりと影を背負いつつ、尚香は劉備の好きそうなお菓子を求めて
城下へと繰り出したのだった。





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